5
さぁさ、そうこうする内にも港を照らし出す朝日が昇り、不安な夜がすっぱりと明けて。いよいよの決戦の日を迎えましたよっ!
「サンジくんたら、ちゃんといいムードだったんじゃないの?」
「あははvv」
もう一押しだったんですがねなんて、冗談めかした言い方をしながら。頭の後ろへ手をやって、ナミさんには敵わないな〜なんて苦笑してるサンジさんや、
「よぉしっ! ゾロもウソップも頑張れっ!」
「お、俺は“大会に出てはいけない病”の発作が…。」
「それ、Hさんに早くから予言されてたぞvv」
「ううう…。////////」
あはははvv チョッパーに言われてますね♪(Hさん、凄ぉいvv)悪魔の実の能力者は出られないという決まりだから“見物”でいるしかないルフィとチョッパー、それにロビンさんという顔触れは、今回はそのまま“応援団”に回るのだそうで。母さんがタンスから出して来た藍色の祭り半纏を今から羽織っているところへ、若い衆たちにねじり鉢巻きを巻いてもらい、彼らは彼らで楽しそうにはしゃいでいる。………ロビンさんも能力者だったのか、これは意外。一体何の実を食べたんだろ? 才色兼備な人になる系統の実かなぁ?(う〜ん) それとは正反対に、海の上では幾度も襲い来た危機をこの手で打ち払った名狙撃手だと胸張って言ってた筈のウソップは、何だかどんよりと海底深く落ち込んでるみたいで。縁側廊下に腰掛けて“とほほん”と項垂れてたりするもんだから、
「…昨夜、色んな冒険のお話してくれたのにね。」
雷鳴轟く絶海の孤島で鉢合わせちゃった“大判焼き魔神”をコテの一閃でひょいっと引っ繰り返し、食いしん坊のルフィにおやつ代わりに食べさせた話とか、濃霧立ち込める森の奥深くにあった“聖酒の湖”に誘い込まれた呑み助の誰かさんを助け出しに、あせどあるでひどの呪文を唱えながら勇敢にもたった一人で森へと分け行った話とか。
「…、よく覚えてんな〜。」
だって物凄く面白かったんだものvv 他にも一杯、話してくれたじゃない。ねえねえって、なのにどうして浮かない顔でいるのって訊いてたら、丁度通りすがった人がいて、
「………ほほぉ、そんな目出度てぇ湖があったのかよ。」
ゾロさん、紗しゃのかかった鋭い目許からの見下し視線が真剣怖いんですが。
「なあなあ“大判焼き魔神”ってのは、いつのおやつだ?」
え? そっちはホントだったの? 凄っごい嬉しそうだけど…ルフィ、魔神を食べちゃったの? 大判焼きってことは、アンコがたくさん入ってたの?
「………ちゃん。」
「そんなややこしいもん、いないないって。」
――― あれれぇ〜?
◇
ある意味では余裕錫々しゃくしゃくな雰囲気のままに、わいわいと大人数で早めの朝ご飯をいただいて。それからこれは毎年の習慣。裏山の勇者たちの祠まで、必勝祈願のお参りに行く。中腹にぐるりと巡る小径が、なんだかお正月に供える2段重ねのお鏡餅みたいな窪みになってる小高い丘は、その真ん中に穿たれた洞窟の入り口まで昇る坂の階段がちょっとばかり急な斜面になっていて。ちょっとした精神修養の鍛練修行にってやって来て、一気に何往復も駆け上がる人もいるっていう、ある意味で“名所”だそうだけれど。あたしたちにはただの裏山ってトコ。でもね、今日だけはさすがに何か違うかな? 今年は忌ま忌ましいことにも“ご神体”の剣を盗まれちゃっているのだけれど、
「毎日ぴりぴりして見張ってたら、そもそも盗まれるなんて事もなかったのかなぁ。」
そんな風についつい愚痴っぽく口にしたら、
「そういうもんじゃないよ? 。」
今日は大会の進行役を受け持ってるお父さんが、いつもの福々しいお顔でにこりと笑ってくれて、
「確かに宝物ではあったけれど。高価な物だったからとか、御利益があったからって祀っていた訳じゃない。もともと、物への依存信仰じゃないのだからね。」
ちょっぴりおっとりと、そんな風に言ってくれた。毎日蒸し風呂みたいなところで大汗かいて槌を振るってるってのに、痩せないんだよねぇ、不思議と。スタミナだけならお爺ちゃんの上を行くから、神剣の打ち直しとか、何日も通しで打ち続けなきゃならない仕事は、この頃では父さんがやってるんだって。いや、それはともかくだ。
「神憑りな剣だったって伝説もあるこたあるけど、そんなのはおとぎ話。よく切れる剣とか凄腕だった勇者だけが凄いんじゃなくて、年寄りから子供たちまで、皆で一致団結したことを忘れちゃいけないんだ。」
そうやって支え合ってこの島を守ってくださった人たちを忘れないよ、あたしたちも仲良く頑張るからねっていうのがそもそもの基本なんだから、そんなことは二の次、三の次なんだよって。そういや、あたしらも小さい頃からいつも聞かされて来てたネ。これまではサ、そうでありつつもやっぱ…分かりやすい対象だったから、剣そのものを有り難がって“なむなむ”って拝んでたんだけど。今回、無くなってみて分かったな。剣そのものへ祈っても何がどうなるんじゃないってことと、でもね、一念発起っていうのかな、大会への決意のほどを報告がてら祈りたいって気持ちは生まれたし、そう思って…今年もやっぱり此処に来ちゃったってこと。急な階段を登りきり、観音開きの格子戸が手前に嵌まったご祈祷の宮へ、ぱんぱんって柏手を打って頭を垂れる。ルフィたちもついては来たけれど、海には海の神様がいるんだし、出身地の信仰だって違うんだろしね。複数の神様に頼ると喧嘩しちゃうかもなんで、無理強いはしないつもりだったんだけど。ルフィやチョッパーは見様見真似で手を合わせてたし、ウソップはむしろあたしたち以上に真剣にお祈りしてたし。ナミさんやロビンさん、サンジさんはお付き合いって感じだったかな? ゾロさんは、刀の柄に肘を引っかけてるあの格好のままで軽く一礼しただけだったけれど、なかなか堂に入っててカッコよかったですvv
「さて。それじゃあ、会場まで皆さんをお連れしておくれ。」
「うんっ!」
若い衆たちは“陣屋”の準備を担いで先に会場に向かってる。今回は気合い入ってたから、立派なの立ててるんじゃないのかなvv
「“陣屋”?」
うん。ああそっか、何のことやらだよね。あのね、ウチみたいに何人も出場者を出すよなトコは“大きな一家族”って感じになって、出番まで体を休めたり、食事や飲み水やってのをお世話したりするための場所を大きく確保しとくの。それを“陣屋”なんて呼んでるのよ。何か仰々しいけど、つまりはウチの班専用のテントってくらいの意味かな? それを皆して設営してるところへ、あたしらは後から追うカッコになるって訳。今年は道場の陣屋も大きい筈だ。何たって出場者の総数がいつもの倍くらいになっちゃってるからね。例年のことながら見物の客だって多いしね。そういうお客目当ての出店や屋台も出るわで、きっと会場周辺は物凄い賑やかなお祭り騒ぎになってるよ♪ 場合が場合だってのに、ついついウキウキと話したら、
「お祭りっ!」
「それって楽しいのか?」
こらこら、チョッパーにルフィ。出ないなら応援だって張り切ってたくせに、何をワクワクしてますかね。
「仕方ないわよ、。」
この子たち、そういう賑やかなのが大好きだからねと、ナミさんが肩をすくめて苦笑してる。
「実を言えばこれまでにも時々、路銀を稼ぐのにゾロやサンジくんが腕試しの大会に出たことはあってね。」
でもね、この子たちと来たら、周辺のお祭り騒ぎの方にばっかり気を取られていたものよ…ですって。それをまた、当のゾロさんまでが“くつくつ”と苦笑して済ませてるなんて、物慣れてるというか…余裕だなぁ〜。
「? あら、ロビン? どうしたの?」
祠からぞろぞろと出て来て、さあ石段を今度は降りましょうとなったところで。ミュールを履いたロビンさんの足取りが不意に遅くなった。それに気づいたナミさんが立ち止まり、あたしも止まりかかったんだけれど、
「ほらほら、ちゃん。俺たちを会場まで連れてってくれなきゃ。」
サンジさんが背中をそっと押したんで、ああ・うんって流されちゃったです。あたしたちは後から追いつくわって、ナミさんのお声もしたしね。だから…これ以降の“お話”は、あたしには聞こえておりませんでしたので悪しからず。
「どうしたの? まさか…。」
海軍からの追っ手が近づいてる気配を感じたとか? そうと訊きつつ、それまでのあっけらかんとしていたお顔が引き締まったナミさんへ、
「いいえ。此処を管轄にしている海軍は、今日は一日“開店休業中”らしいから心配は要らないわ。」
何せ途轍もない人出になるから、地元の警察から要請があって交通整理だのスリや置き引きへの警戒やら、遺失物や迷子の世話、人込みに酔って倒れる人の収容などなど、そりゃあ忙しい雑事に駆り出されるんだそうよ、と。こんな遠くに居ながらちゃんと“判る”らしいお姉様が、そりゃあ楽しそうに笑って見せて、
「向こうの陣営にも素性の怪しい人たちがいっぱい集まってるそうだから、わざと招き寄せて捕まえさせるなんて策は取れないことでしょうし。」
それより何より、こちらの正体には未だにてんで気がついてないらしいわよと楽しそうに付け足したのへ、
「はぁあ、それって喜んで良いやらだわよね。」
威厳ってものがないんだもの。これまでだって、舐められはしても恐れられた試しって殆どないものね。そんな言いようをして、とほほんだわと肩の力を落としたナミさんだったりしたのだけれど、
「だから。
あんな可愛らしいお嬢さんに懐いてもらえるのだし、
先入観なしに船長さんたちの屈託のない人柄を知ってももらえるのでしょう?」
にこにこと笑うお姉様の言いようへは、ナミさんも…実は同感であるらしく。困ったことよねと“くすすっ”と吹き出したほど。
「で? その可愛らしいお嬢さんには聞かせたくないの?」
「う…ん。大したことじゃあないのだけれど。」
そう言って、こそこそと何やらナミさんへ耳打ちをしたロビンさんは、結局は大会の会場には来なかったの。海軍がどうのこうのってのは…何のお話だったんでしょうね? 追われてるってこと? う〜ん…。
◇
武術大会が催される会場は、やはりやはり物凄い盛り上がりぶりだった。港に接した倉庫群の一角、使ってない木組みの倉庫を解体してまで試合場とその周辺の観客席を確保して設けた会場は、出場者たちの陣屋と見物人たちの階段場に組まれたスタンド席とを大外から取り巻く人の波がまた物凄くって、
「嬢ちゃんっ。」
「こっちですよ。」
鍛治見習いの若い衆たちが広々と設営しといてくれた陣幕で囲まれた一角には、横長のベンチやテーブルだけでなく、少し大きめのアームチェアも運び込まれてあって。茶器や簡易型のコンロ、大きな行李にはおこわのおむすびや鴨肉の佃煮、マイタケのてんぷらに鮭とレンコンの挟み揚げ、甘藷のお焼き、さつまあげと凍り豆腐の煮付けなどなど、皆のお弁当がぎっちり詰まってて。
「いいか? 。ゾロさんと道場の師範代は最優先で勝ち進んでもらうとしてだ、このトーナメント表で見てくと、お前もこっちの顔触れと結構当たる。」
中央の大テーブルは作戦本部という構えになっており、残念ながら怪我で出られないお兄ちゃんが参謀役だ。広げられたトーナメント表には、強豪選手に赤い印がつけられていて。あと、敵方の代表には青で星がついている。それで見る限り…あ、ホントだ。あたしは最初の試合からして身内と当たってる。
「でも、太一よりかは あたしの方が強いよ?」
「…らしいな。」
弱い側は抵抗しないで強い選手を勝ち残す“不戦勝”稼ぎで進めてこうっていうのが、昨夜話してもらってた“作戦”なんだろうけれど、
「…何よ。」
「いや…。」
あたしの腕っ節はお兄ちゃんだって重々承知だ。これでも、同い年の仲間内には男女の区別なく負けたことがない剣豪なんだからねvv だからして、あたしは勝ち進む組に計上されるべきところ…なのに、何だか歯切れが悪そうなの。
「女だから守ろうっていうなら余計なお世話だよ?」
「。」
いつもの大会ならこっちからだってそんな甘えたことは持ち出さない。お兄ちゃんはそうと言い連ね、
「ただ、今回は違う。それはお前も分かってるんだろうが。」
一回戦は身内も同然な幼なじみの子が相手、その次も同じような組み合わせを勝ち上がって来た男の子が相手だが、その次は…恐らく、向こうの助っ人らしい飛び入りの剣士が勝ち上がってくる。
「それが何よ。」
「怪我でもしたらって心配しちゃあいかんのか。」
う…。そりゃあ、いつもの大会は“寸止め”っていうのかな、木刀なり棍棒なりの切っ先が避け切れない間合いに決まったら、審判が素早く判定して勝敗が決して終しまいなんだけど。だからして、切り結びから隙をついて打ち込んだ側の人も、よほどきわどい接戦にでももつれ込んでいない限りは、本気の力いっぱいに相手を叩き伏せるなんて事はしないんだけれど。
「今回のはただでさえ、遺恨がらみなもんだと向こうは構えてもいようしな。」
流れ者や無頼の者など、得体の知れない配下が多いその上、昨日慌てて掻き集めた旅の剣客もたくさん抱えてる。そんな輩たちではそういった作法に則ったスマートな手加減なんかしないだろうから、
「図に乗った奴が何をするか。」
それが心配だから、出来れば早めに引いてほしいと、そう言いたいお兄ちゃんなんだろう。でも、
「そんなのヤだもん。」
「、聞き分けな。」
いつもは優しいお兄ちゃんが、強い口調で言う気持ちも分からなくはないけれど、こっちだってムキになって駄々をこねてるんじゃないし、意地を張ってるんでもない。
「女だからって言うんなら…っ。」
「何でそもそも剣を振り回させてんだ?」
……………あ。
あたしが言いたかったことを、別な声がさらりと手短に言ってのけてくれた。勢い込んでた分、言い回しが上手く思いつけなかったんだけど、そうなのよ、それを聞きたかったのよね。
「…えと。」
声がした方を見やると、陣幕の奥向き、幕を張る支柱代わりにしていた木立ちの根元のところに背中を預けて座り込み、ゆったりとリラックスしていたゾロさんが、そんなお声を掛けてくれたらしくって。
「剣を振るうったって、こんな平和な土地柄じゃあ“礼儀作法や精神修養のため”ってことが先に来るんだろうけどな。」
それを小馬鹿にするって言い方ではなく、むしろ、
「ただな、そういう心掛けから剣を振ってるって言うのなら尚のこと、
女だと怪我をするかも知れないから、
それは可哀想だろから止めるなんてのは理屈がおかしい。
なら最初から生け花や書道や、いっそ禅道の修行でもやりゃあいいんだ。」
腰から外してすぐ傍らに立て掛けられているのは、研ぎ上がったばかりの3本の和刀。大海原を航海中のゾロさんは、海賊や盗賊と戦ったりもするのだろう。本気で命のやり取りをするような対峙だって乗り越えて来たに違いない。
「まだ未熟だからとか、力量が相手に及ばないからってことをはっきり言ってやんな。そうでもない限り、そうですかと引っ込めるもんじゃあない。本気で道を突き進んでるんなら特にな。」
それこそはっきりと、冷然とした口調で言ってのけたゾロさんだったんで、周囲にいた面々が身を凍らせてしまったほど。主家のお嬢さんだからっていうような、庇い立てや遠慮なんかをされたことはなかったけれど、それでも…こうまですっぱりと言われたこともなかったんで、そこは…あたしもカチンと来ちゃったかな。
「未熟かどうかは、ゾロさんにも判らないことでしょう?」
剣を持ってるとこは、まだ見せてないもの。なのに言い切るかなと、ムッとしたらば、
「多少は判るな。腰のすわりとか足さばきとかで。」
達人であればあるほど、これ見よがしなもんじゃなく、自然と身について滲み出すもんだからな…なんて言うじゃありませんか。そうなの、じゃあ…っと。手近なテーブルに立て掛けてあった箒をこつんと蹴り倒し、柄を受け止めた反射反動って素早さで穂先をブンッとゾロさんの頭上へと振り下ろした。もちろん寸前で止めたけど。
「どう? 素早くて対応出来なかったでしょ?」
「本気じゃなかっただろうが。」
………え?
隆と筋肉の張った胸板に、これも雄々しい両の腕を組んだままのゾロさんは、そんな格好で自分で自分の腕に錠前を掛けたままにて“くつくつ…”と低く笑って、それからね、
「最初から叩き伏せるつもりはなかった。そうと判ってたから避けなかったまでだ。」
ちろりんと斜めに見上げて来た目線がまた、余裕たっぷりで。
「ま、こういう場合はさすがに避けるが。」
ひょいっと機敏に立ち上がったその後へ、カカカッと幹に突き立ったのは…細身の果物ナイフが1ダースほど。それと、
「貴様〜〜〜っ。ちゃんを愚弄しとったなっ!」
おやや。サンジさんのよく通るお声が飛んで来た。ミカンやバナナでミックスジュースを作る下ごしらえをしていたらしい。
「奴が包丁を投げるってのはよほどのお怒りらしいな。」
何たって“調理人の魂”らしいからな、そんなこと言って、ほんのりしょっぱそうに目許を眇めて、クスクスと笑ったゾロさんであり。わざわざ腰を上げて移動して、逃げるように避けたのは、
「剣や柄で弾き飛ばせば、周囲への被害が甚大になったからだな。」
お兄ちゃんがそんな風に言って感心してた。滅多矢鱈と考えなしに立ち位置を変えるのは得策ではないそうで、例えばこれが相手の“燻いぶり出し作戦”だったら? 飛び出したばかりの不安定な態勢へ、今だとばかりの攻撃が降りそそぎかねない。なのに…瞬時にどっちを取るかを選択出来た。こんな何でもない場で、あたしからのあからさまな八つ当たりの攻撃にはひくりとも動じなかった人が、そりゃあなめらかに素早く避けた。
「判るな? 。」
「…うん。」
ゾロさんがどのくらいの腕前なのかがちゃんと判った、昨日の帰り道を思い出す。隙のない人、どこから突っ込んでも歯が立つまいって判断出来た。それって、臆病な警戒っていうんじゃなくって、分をわきまえたことで無駄な怪我を負わずに済むってことでもある。強い人ほど余裕で振る舞うように見えるけど、それは決してカッコつけてのことじゃあない。無駄なことをしないことが、余計な被害やとばっちりを広げないことにつながるからだ。
「お前に剣を学ばせているのは、誰かを叩き伏せて凌駕させるためじゃあない。キザな言い方になるが、自分を律することの出来る強い自制を身につけさせるためだ。」
対手の力量を知り、そこから自分を知ること。若しくは、自分を知り、相手を知ること。天狗になったり暴走したりしないで、周囲をちゃんと見回せること。
「………うん。」
そうだったね。誰かを叩き伏せさせるための強さなんていうのは、どこでどう歪むか判らない、とっても怖い定規なんだってこと、あたしは後々になって思い知る。海賊や野蛮な盗賊は弱いものを虐げたり、人質に攫って討伐隊からの楯にしたりもするというけど、そんな奴らは“強い”んじゃなく卑怯なだけ。そういう強さに発展しかねない、そりゃあ怖い剣であり。でも、そんな剣も時には振るわねばならない、海賊たちがうようよ徘徊している外の海を航海しているゾロさんたちは、余程のこと、鍛練を積んでいるんだなと、そんな風に思い知ったよ。だってさ、格別に強くて、姿勢もこうまできっぱりしていて。それと同時に、とってもとっても“良い人”たちだったもの。ホント、全部判っちゃった後になっても、海賊だったんだって判った後でも、それでも。また逢いたいねぇって皆して思った、そんな素敵な人たちだったからね………。
←BACK/TOP/NEXT→***
*やっと当日です。カメののろいでっす。頑張れ、自分。 |